「遊びながら学ぶ」って、なんだか理想的な響きですよね。でも実際には、どうやって遊びと学習を結びつければいいのか分からない…そんな風に思っていた私にとって、この本との出会いは目から鱗でした。

世界的ゲームデザイナーが提案する革新的アプローチ
世界的ゲームデザイナー/クリエイター、エリック・ジマーマン(『ルールズ・オブ・プレイ』著者)が贈る、〈遊び〉の哲学と実践というサブタイトルに惹かれて手に取ったこの本。著者のエリック・ジマーマンは、ニューヨーク大学ゲームセンター(NYU Game Center)でゲームデザインの教授を務めるゲーム業界の権威です。
この本の最初から驚かされたのが、「この本は、学ぶべき情報や吸収すべき事実の記されたものではない。行動の手引きであり、プレイの状況を作る指針だ。新しい考え方のレシピ本だ」という宣言でした。確かに、これまでのビジネス書や自己啓発書とは全く違うアプローチで、読者を「参加者」に変えてしまう魔力があります。
21世紀は遊びの世紀?
21世紀は遊びの世紀。発想力、問題解決力、共感力は、遊んで伸ばそうという言葉が本書の核心を表していますが、これは決して軽薄な主張ではありません。現代のビジネス環境では、創造性、柔軟性、コラボレーション能力がますます重要になっていて、従来の詰め込み型学習では対応しきれない課題が山積みです。
著者は、創造的なコラボレーション、グループでのブレインストーミング、問題解決、システムの理解、アイデアの伝達といったあらゆる分野や状況で役立つスキルを楽しみながら身につけられる方法を提示しています。これって、まさに現代の職場で求められているスキルセットそのものですよね。
PCを使わない25のエクササイズの魅力
特に魅力的だったのが、PCを使わない25個のゲームエクササイズを通じて、遊びながら柔軟な頭と心を育み、創造性を養えます(オンラインでのやり方についても説明)という点です。デジタル技術がどんどん進歩する中で、あえてアナログなアプローチを取ることで、人間本来の創造性や直感を引き出そうとする姿勢に感銘を受けました。
本書はプレイ(プレイについての考え方/エクササイズ:20〜30分でできるプレイ)/システム(システムについての考え方/エクササイズ:数時間でできるシステムの改変)/デザイン(デザインについての考え方/エクササイズ:1日以上かけて行うゲームデザイン)の3つのセクションに分かれていて、段階的に深いレベルでの創造性開発に取り組めるよう構成されています。
実践的で即効性のあるワークショップツール
ワークショップ、研修、アイデア出し、エレベーターピッチ、チームビルディングetc.でお役に立つ一冊という宣伝文句は決して誇張ではありません。実際に、いくつかのエクササイズを職場の同僚と試してみたのですが、普段のミーティングでは出てこないようなアイデアが次々と生まれて、みんな驚いていました。
特に印象的だったのは、短時間でできるプレイ系のエクササイズです。20〜30分という限られた時間の中で、参加者の固定観念を崩し、新しい視点を獲得させる仕組みが本当によく練られています。アイスブレイクとしても、本格的なブレインストーミングのツールとしても使える汎用性の高さに感動しました。
山本貴光氏による日本語版解説も秀逸
日本語版解説には山本貴光氏(ゲーム作家、文筆家、東京工業大学教授)が寄稿されており、これがまた素晴らしい内容でした。日本の文脈におけるゲームと学習の関係性について、深い洞察を提供してくれています。海外の理論をそのまま輸入するのではなく、日本の文化や教育環境に合わせた解釈を加えてくれているのがありがたいですね。
デジタル時代だからこそのアナログ回帰
現代社会では、何でもデジタル化、効率化が求められがちですが、この本は真逆のアプローチを提案しています。人と人が直接顔を合わせ、身体を使い、感情を共有しながら学ぶことの重要性を改めて認識させてくれました。
ゲームシート(PDF)ダウンロード可という配慮も実用的で、すぐに実践に移せる点も評価が高いです。理論だけでなく、実際に使えるツールまで提供してくれるあたりに、著者の実践者としての経験値の高さを感じます。
チームの創造性を本当に高める方法がここにある
読後の感想として一番強く残ったのは、「チームの創造性を高める具体的な方法が分かった」ということです。これまで、創造性やイノベーションについての本はたくさん読んできましたが、ほとんどが抽象的な理論に終始していて、「で、具体的には何をすればいいの?」という疑問が残りがちでした。
でもこの本は違います。明日からでも、いや今日からでも実践できる具体的なエクササイズが25個も用意されているんです。しかも、それぞれのエクササイズが単独で機能するだけでなく、組み合わせることでより深いレベルでの学習効果を生み出せる設計になっているのが素晴らしいです。
こんな人に特におすすめ
この本は特に以下のような方におすすめしたいと思います:
- チームビルディングやワークショップの企画に関わる人事・研修担当者
- クリエイティブな発想を求められるマーケティングや企画職の方
- 教育関係者や講師業の方
- スタートアップや新規事業開発に携わる方
- 固定化した組織文化を変えたいと思っているマネージャー
まとめ:遊びの力を侮るなかれ
「遊びと創造 やわらかなデザイン頭を養うゲームエクササイズ25」は、遊びの持つ学習効果を科学的根拠と実践的な手法で体系化した、画期的な一冊でした。「遊び」を軽視しがちな日本のビジネス文化の中で、この本が提案するアプローチは確実に新しい風を吹き込んでくれるはずです。
真面目に「遊ぶ」ことで、個人の創造性も、チームの結束力も、組織のイノベーション力も向上させることができる。そんな可能性を具体的に示してくれる貴重な実践書として、多くの方に読んでもらいたい本です。